初世貞松斎米一馬が正風挿花を大成したのは、江戸時代の後期、寛政十年頃であって、以来随時随所に花筵をひらくとともに、華道感謝のために 「華神祭」を執行し、そのときの図編『衣之香』を発行しています。その巻頭には、始祖貞松斎の指導者である各師匠の序文および図絵が自序とともに記され、山本北山先生の序文中にも、「華神を祭る」という句が記されています。そして、この「華神祭」はその後の歴代宗家によって毎年執行しつづけられているのです。
カテゴリー: 「遠州」の特徴
「遠州」の特徴④-華包
遠州正風挿花の基本花枝から、一つを取り出しその枝の持つ特徴を美しい曲線美をつくりだす花形です。
華包とは
江戸時代(1780年代)、初世貞松齋米一馬が著した花伝書『正風切紙傅授書』の華包を基に明治44年(1911)に六世貞松齋米一馬(芦田春壽)が、各花、行事、また、贈答用にそれぞれ紙の折り方色彩を定め完成させられたものです。七世貞陽斎一春(芦田陽子)が、この華包を現代の生活の中に取り入れ、新しい日本の美の花飾りとして普及に努めています。
華包とは
華包の活用例
「華包」は、和紙に包んだ草木を贈答とする文化を今日世界へ再提案し、「華包」を花器と見立て四季の草木をか生かすものです。季節の草木に合わせ、『華包』の伝書に基づき、花器となる和紙の色や折り方を提案します。現代の生活空間を華やかにする花飾りとして、また、大切な人へ送る贈答品として最適です。
室内の花飾りとしての「華包」
贈答品としての「華包」
「遠州」の特徴③-薬研配り・くさび撓め
薬研配り
遠州では、「薬研配り(やけんくばり)」という花留めを用いるところに大きな特徴があります。
この薬研配りは薬草を砕いて粉にする道具(これを薬という)にヒントを得て考案されたといわれます。
遠州の生花では、花材が配り(花留め)にしっかり留まっていることが最も大切な要件とされます。足元がしっかり留まってなければ、遠州特有のゆたかな曲線をあらわすことができないからです。
くさび撓め
くさび撓めは、遠州の代表的な技のひとつであり、最も多用される技です。
のこぎりで切り目を入れたところに、別の枝から切り出した「くさび」をはめこみ、曲線をだします。
「遠州」の特徴②-変格花矩・曲いけ
変格花矩の花体
変格花体は、花体を構成する役枝の1つ以上が、円相の外に流れ出しているものです。それを「流し」と呼びます。 この流しと役枝との関係から、変格花矩による花体の種類が生じます。それは次のような7種類です。
- 真流し(内)
- 真流し(外)
- 真添え流し
- 肩流し
- 内胴流し(内流し)
- 行流し
- 留流し
これら7種類の花体から、なお変化をあらわした花形に、次のような花形があります。
- 破格花体
- 曲いけ
曲いけのいろいろ
曲いけというのは、役枝の曲が特殊な趣向を見せて流される花体で、「富士流し」「真結び」「行結び」「観世流し(立観世、横観世)」「行巻き出し流し」「留巻き出し流し」など様々な種類があります。 また、「二重撓め真」「三重撓め真」のように、真が二重にも3重にも曲を描いて豊かに立ち上る花体も曲いけにはいります。 このほか、真流しの変化である、「谷渡り」「谷越え」「水くぐり」などもあります。 曲いけは、遠州生花の特徴をもっともよくあらわす花形として、その流麗な線の美しさと作意の秀抜さが、古くから愛好されてきました。
「遠州」の特徴①-総論
遠州正風の花形と特徴
遠州の生花(古典生花)は、円相と、天・地・人の理想をもとに「曲・質・時」の内容をととのえて、自然の理想美を求めてきました。
正風遠州流の生花、正しくいうと、遠州流正風挿花、又は遠州流挿花正風体の基本は「正風の花のかたちはなべてみな一円相に納るるなりけり」という歌にも示されているように、「一円相」の理念によって形づくられています。
円相というのは、万物のもとや、はじめを意味する「本体」のことであって、角に対する丸という意味だけの円ではありません。「不円不方(円ならず方ならず)」といわれるように丸や角(方)を超えたものとして認識されます。ちょうどそれは、花卉草木に置く白露のようなもので、それ自身は無色透明ですが、花卉草木に宿ったときにはじめてそのものの色に染められるのです。この白露のように虚空そのものでありながら、いっさいのもとになるのが「本体」なのです。またそれは、存在するもの皆包むものとして「大有」ともいわれます。清浄透明の真如一乗の世界が、遠州流の円相の理念の根源をなしているのです。
上記画像は「水仙三ヶ条」といい、季節の移ろいとともに、自然の水仙の姿が変化するのに合わせて花もいける。曲線を生かした理想の姿を描き出した。花器は香炉形。
いっさいの形を超えた「空」の円相は輪廻や循環などを契機にして「一円相」に関連していきます。つまりそれは、宇宙的リズムとしてはたらき、春から夏、夏から秋、秋から冬、そしてまた冬から春とひとめぐりします。ここではじめて「一」という形が出てきます。「空」から「一」へすすみ、「無」の円相から「一」の円相に発展するのです。
「円相」は「空」の円相の場から天地自然のリズムにを受け継ぎ、それを花の形おいて表現する場でもあります。
正風遠州流の生花の本質を形づくる一円相の理念は、単に仏教にみられるばかりでなく、西洋哲学や中国の易経・儒教思想の中にも流れている考え方です。たとえば易経では、「元享利貞」ということばがあります。これは、春夏秋冬の順序で時間がたえずぐるぐるまわって元にもどり、たえず円相を描くということを意味します。これをみてもわかるように、すべて自然の摂理か発した考え方で、非常に普遍的な発想でもあるわけです。
この一円相の考え方は、室町時代ころからいろいろな芸道に深く入り込んでいますが、その頃起こったいけばなもその例外ではなく、立花などにもみられるように、早くから円相に基づいた造型がくりひろげられてきたのです。けれども遠州の花道において、特にこの考え方が強くおし出され、初世米一馬がこれを完成したといえるでしょう。さらに先代の六世米一馬が集大成にこれをまとめたのです。
遠州では、生花を「しょうか」と呼び、天の枝を「真」、人の枝を「行」、地の枝を「留」と名づけている。花体(花型)はこの真、行、留を骨子にして形づくられるが、さらに必要な枝が加わって、役枝の数、つまり「段矩」が発展、いろいろな花体が展開される。
真(天)、行(人)、留(地)の三枝に真添(日)肩(月)内胴(星)、小隅(辰)の四枝を加えた七本の役枝による構成を七段の花体と言い、さらに外胴(乾)、留真(坤)の二枝を加えた九本の役枝による構成を九段の花体と言う。遠州では、この七段と九段の花体を基本花型として、花型修得の第一課にすえている。
なお、真(天)と留(地)だけで溝成される花が二段の花体、真(天)、行(人)、留(地)の三本だけで構成される花が三段の花体、真、行、留に真添(日)と肩(月)を加えて構成される花が五段の花体である。段拒はさらに十一段、十三段、十五段のように発展する。
役枝はすべて花器(寸度)の寸法の二倍を直径とする円(円相)を基準にしてきめられる。寸度の寸法の二倍を直径とする円を花器の上に想定したとき、真は弧を描いて立ち伸び、先端が円を突き抜ける。真添と肩はそれぞれ真に沿って前と後ろに働く。行は真の湾曲する側の前隅へ、留は行とは反対側の前隅に振り出されて、それぞれ円内におさまる。小隅は行の側の後ろ、内胴は留の側の後ろ隅に振り込まれて、それぞれ円内におさまる。
生花の花体は、流し枝の数や形態上の変化によって真、行、草の三態に分けられる。真の花体は正格花矩とも言い、真を除くすべての花枝が円の内におさまる形を言う。行の花体は変格花矩とも言い、真流し、真添流し、肩流し、内胴流し、行流し、留流しなどのように、真を除く役枝の一つが曲を描いて円の外にはみ出す形を言う。草の花体は破格花矩とも言い、複数の役枝が円外にはみ出して働く形を言う。補天格、助他格、富士流し、観世流しなどの曲いけや掛けいけ、釣りいけなども草の花体となる。
また、本勝手(右勝手)、右の花と逆勝手(左勝手)、左の花の別があり、豊かな曲線美による流麗で派手やかな花風が、遠州の生花を著しく待徴づける。
━━━読み方━━━
真(天)─しん 行(人)─ぎょう 留(地)─とめ
真添(日)─しんぞえ(じつ) 肩(月)─かた(げつ)
内胴(星)─うちどう(せい) 小隅(辰)─こすみ(しん)
外胴(乾)─そとどう(けん) 留真(坤)─とめしん(こん)
寸度─ずんど 正格花矩─せいかくかく 変格花矩─へんかくかく
破格花矩─はかくかく 補天格─ほてんかく
助他格─じょたかく 観世流し─かんぜながし
段矩─だんく